レイオフ、エンジニアリング、僕のこと


Mrs. GREEN APPLE 「僕のこと」しか聞けない身体になってしまいました。

最近、海外企業でレイオフが相次いでいます。まさにパラダイムシフトのど真ん中にいる感覚がありますし、「歴史は自分を中心に回っているのでは?」と錯覚するほどです。 社会に出て10年目を迎えるタイミングで、産業構造のこれほど大きな変化を目の当たりにできるのは、ワクワクせずにはいられません。

戯言はさておき、私自身も雇用されている身として、雇用されている側が強く守られている日本の法律は決して悪くありませんが、企業が大胆な意思決定や戦略転換を迫られる場面では、海外に比べて一歩出遅れる印象が否めません。 この社会全体の意思決定が正しかったかどうかは数年後に検証できるでしょうが、それらに感化されて、ここから数年かけて人件費のような準固定費を避ける動きが強まり、外注需要の増加や正社員採用市場の冷え込みが日本でも起こるのではと考えています。

人材・コスト以外の観点では、レイオフで一度手放して、投資領域の人材を確保するという動きが日本では難しいため、既存人材の再配置が進むはずです。 その結果、アンラーニングやリスキリング領域が盛んになると予想しています。AI リテラシーを高める以前に、AI を適用すべき事業やプロセス自体を見直すイメージですね。

また、AIの知識量が爆発的に増えることで、実務における専門性は徐々に希薄化していくようにも感じます。 その分、ワークフローの構築にこれまで以上の注目が集まるでしょう。大企業が多くの新卒を抱えて利益を生み出せるシステムを持つように、中小企業であっても高度にシステム化されたワークフローが求められ、少ない人材で高い利益を生むことが社会的に必要になるはずです。

エンジニアリング文脈で気になるのは、Microsoft のレイオフが TypeScript にどのような影響を与えるか、です。今回の対象には、TypeScript 開発に長く携わってきたシニアエンジニアも含まれます。 かつて Mozilla のレイオフを契機に Rust Foundation が設立されたように、TypeScriptもコミュニティ主導へ移行するのか?と身構えています。

企業が言語を管理することは安定性に直結しますが、同時にその企業への依存を招きます。グローバルではコミュニティ貢献意識が高いため、コミュニティ主導でも十分に安定は望めるでしょうが、企業管理の盤石さには及びません。

AI の台頭により Python と並んで注目される TypeScript ですが、カタログスペックだけを見るなら、Microsoft が TypeScript に固執する必要性はさほど高くありません。 C# や F# など優れた独自言語も提供していますし、だからこそ、TypeScript のコアコントリビューターであり TC39 に提案も行うシニアエンジニアをレイオフした事実は、単なる「プログラミング言語」の枠では語り切れないと感じています。 個人的には、Microsoft の見据える未来には「プログラミング言語」という存在自体が希薄になっているのでは、とさえ思います。 今の段階で TypeScript の開発力やTC39とのコネクションを手放す判断は、あまりにも早すぎます。早すぎた埋葬。

Microsoft はソフト・ハードだけでなくモデル開発やAIプラットフォーム提供まで手がけるからこそ見える景色があるのかもしれません。 一方、同じくソフトからハードまで網羅し、AI 開発に積極投資する Google は同様の動きを見せていません。少なくとも Go や Dart の開発に注力するエンジニアを解雇したという報道は見当たりません。

Google の場合、Android や Pixel への投資縮小や、社会的に Chrome 事業の分社化・売却を迫られるなど、また別の課題を抱えているようです。 余談ですが、Chrome を仮に売却したとしても、人類向けインターフェースへの投資自体は悪手だと思うので、 Google にとってさほど痛手にはならないと思っています。Google が掲げる技術的リーダーシップの観点では、まだ手放すには早いアセットでしょう。

というわけで、「この先何が起こるかは誰にもわからない」が結論です。ただ、プログラミング言語の興隆と衰退には今後も注視していこうと思います。 どうなるかわからない未来の話は置いておいて、長男が最近ようやく野菜をすんなり食べてくれるようになって、嬉しい限りです。